2018年
7月
20

「カジノ法案への懸念」闘魂メルマガvol.108より

本日、カジノ法案が成立しました。残念です。カジノは、国民の堕落を招き、付加価値を生まない状況をつくりだしてしまいます。カジノの何がいけないのかを、2018年3月6日に「カジノ法案への懸念」と題してメルマガを配信していましたので、ここに再掲させていただきます。

※データは3月6日時のものなので、法案成立時とは違うことをご了承ください。

 

 

 

 「カジノ法案への懸念」

江夏正敏の闘魂メルマガ vol.108 2018年3月6日発行

 

政府は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)実施法案を成立させようと躍起になっています。一番懸念されている「ギャンブル依存症」への対策として、日本人客の入場回数の上限を週3回、月単位では10回程度とするなどの規制を設けることを提言。入場履歴はICチップや顔写真付きのマイナンバーカードで確認するとしています。あわせて、日本人と国内在住の外国人を対象に、1人2千円の入場料を設けようともしています。そもそも、この日本にカジノをつくろうとする動きは大丈夫なのでしょうか。今回のメルマガでは、カジノについて考えてみたいと思います。

●なぜ統合型リゾート施設(IR)をつくりたいのか。
政府は、統合型リゾート施設(Integrated Resort)をつくろうとしています。IRとは、ホテル、展示場・会議施設、ショッピングモール、エンターテイメント施設、飲食施設、カジノ等の機能が一体化した滞在型複合観光施設のことを言います。いろいろ美辞麗句を並べて説明していますが、要するに「キラー・コンテンツであるカジノを餌にして、日本人や外国人観光客に、お金を使わせたい」ということなのです。

●世界最高水準の規制と言われているが。
カジノには様々な問題があります。マフィアや暴力団の暗躍、ギャンブル依存症、青少年への影響、マネー・ロンダリング、麻薬など蔓延、地域の治安悪化などです。さらに、日本初の民設民営カジノの違法性阻却問題、すなわち賭博罪がありながら、なぜ今回のカジノだけは合法なのか。それで、冒頭に述べたように、入場料を徴収したり、入場回数の上限をつくったり、マイナンバーカードを利用したりと、政府はいろいろと考えて、「世界最高水準の規制」と説明しています。それを真に受ける気にはなれませんが。

●カジノは「ゼロサム」、新しい付加価値を生まない。
ギャンブルは、偶然性に対して金を賭ける行為であって、賭けを通じたおの金の移動でしかありません。そして、カジノ企業の儲けは「顧客が負けたお金」であり、新しい経済的富を生み出さない「ゼロサムゲーム」です。このことを経済学者であるポール・サムエルソンは、「ギャンブルとは、(1)新しい価値を生み出さない無益な貨幣の移転であり、(2)所得の不平等と不安定性を助長する経済的特質を持つ」と指摘しています。

●カジノはその地域経済の犠牲の上に成り立つ。
また、カジノ企業が儲かるということは、その近隣地域の住民の皆様が、本来、他のことで有益な経済活動をするはずだったことを、ギャンブルに振り向けた浪費の結果であると言えます。それは、その近隣地域の潜在的発展を阻害し、顧客やその周辺経済の「犠牲」の裏返しなのです。このことを、米国ではカニバリゼーション(共食い)と呼んでいます。「カジノの繁栄が、その地域の経済の繁栄を保証しない」ということを知っておくべきでしょう。北海道、東京、愛知、大阪、和歌山、徳島、長崎などがIR誘致に取り組んでいますが、該当の都道府県民は注意が必要です。

●カジノの周辺地域に観光客が流れない。
カジノのビジネスモデルは、様々な誘導サービス(ホテル代を安くする、交通費を何割か負担するなど)をして、とにかくカジノに来てもらい、お金を使ってもらう形態です。つまり、顧客を囲い込み、周辺観光施設に流れさせないようにする仕組みなのです。ラスベガスでも、周辺観光に向かう比率は16%しかありません。カジノを使ったIR全体での集客力の大きさは、この不公平な価格競争(ホテル代、交通費、飲食費などの低価格攻勢)で、周辺地域からより多くの顧客を奪う力の強さと見るべきでしょう。

●カジノで街おこしをした都市が、今は・・・。
アメリカのミシシッピー州にあるチュニカは、かつて「チュニカの奇跡」と言われた街です。カジノを誘致して、貧困地域の活性化の成功例として賛美されました。しかし、近年カジノ収益の急減により、経済危機に見舞われています。また、ラスベガスに続き1976年にカジノを合法化して、米国第2位のカジノの街であったアトランティックシティも、近年カジノ収益の急減で、12カジノ中5カジノが経営破綻しました。そして、大量の失業者が発生し、市の財政が破綻状況になるなど、カジノ依存の街づくりの失敗に直面しています。アトランティックシティでは、「街をダメにする良い方法、それはカジノをつくることさ」と自虐的な言葉が出る事態となっています。

●IRの近隣住民をギャンブル漬けにして収益性が成り立つ。
政府の説明では、IRが地域経済振興策として言われていますが、注意が必要です。例えば、地方型IRは、海外のIRだけではなく国内の大都市型IRとの競合が避けられません。ラスベガスですら、海外客の比率は16%ほどなのです。地方型IRの海外富裕層獲得は極めて困難となるでしょう。つまり、地方型IRの収益源は地元を中心とした国内客とならざるを得ないのです。こうして、地方型IRの近隣の自治体は、その地域の住民のお金をIRに収奪されることになります。結局、近隣住民をギャンブル漬けにしていくことで、IRの収益性が確保されていくことになり、本来、市民の健康福祉の増進を図る地方自治体が、経済効果や税収拡大のためにギャンブル振興に血道をあげ、近隣地域を踏み台にしていかねばならなくなるという皮肉な結果になりかねません。

●大都市圏のIRを成り立たせるためには。
一方、大都市圏でIRができたとしても、例えば、6000億円のカジノ収益を上げるためには、100万円負ける顧客が、毎年60万人必要となります。この国民生活破壊力、依存症誘発度は、恐ろしいものがあるでしょう。

●カジノは顧客が負けるようになっている。
そもそも、カジノは顧客を貧しくするビジネスです。カジノの高収益の理由は、カジノ企業側が、「法則的に」儲かるように設計されたギャンブルを提供するからです。

●カジノは顧客を依存状態に誘導することで成り立つ。
ギャンブルというものは、顧客が一定の確率で勝ちを体験して夢中になっていき、その賭け事を続ければ続けるほど確実に負けて終わる仕組みとなっているのです。ですから、カジノ側は、顧客に途中で止めさせる訳にはいかず、顧客を依存状態に誘導することで借金をさせながら継続させるのがカジノビジネスの特質なのです。そして、貯金を使い果たし、借金を背負いはじめるという結果となり、その地域の住民を貧しくしてしまいます。副作用が強すぎると言えるでしょう。

●政府は家族ぐるみで楽しめる施設と言うが・・・。
政府は、IRを家族ぐるみで楽しめる施設と言っていますが、家族ぐるみで依存症になる危険性があります。ラスベガスにおけるリピーターは、やはりカジノ目当てが多く、依存状態に仕立てられていきます。よくないと思います。

●ギャンブル依存症に無防備な日本。
そもそも日本ではパチンコや競馬などの既存のギャンブル依存症対策も進んでいません。厚生労働省の推計では、生涯で一度でもギャンブル依存症だった疑いのある人は3.6%(約320万人)いるとされています。これは、海外の1~2%程度のよりも高いのです。依存症に苦しむ人が増えれば増えるほど、カジノビジネスは収益を伸ばしますが、依存症治療に要する費用、矯正施設の建設費や維持管理費が発生します。また、依存症にならなければ、普通に得られた賃金・給与、そして、そこから支払われたであろう所得税や住民税などが消えてしまっています。つまり、トータルで考えればIRという名のカジノは採算の取れないビジネスであるのです。

●IRが出てきた理由。
IRは、カジノの聖地とも言われるラスベガスで、カジノ入場者が減少したため、集客増対策として、国際会議場や展示場でビジネスマンや学会関係者を集めるために生まれたと言われています。そして、アミューズメントパークも併設し、大人だけでなく、子どもたちも楽しめる場所を設置することで、家族ぐるみの滞在も狙いました。シンガポールでは、2015年に亡くなったリー・クアンユー元首相が「カジノを導入してまで観光客を増やすことに猛反対した」とされており、そのクアンユー氏が、結果的に2カ所のカジノを認めたのは、IRという形態だったからこそと言われています。

●日本の手本であるシンガポールでIRは斜陽化!?
さらに、カジノについては、シンガポール国民は、1日9000円の入場料が必要で、企業や家族からの申請があれば、立ち入り禁止令も出せるなど、ギャンブル依存症の対策を徹底していました。しかし、最近では、シンガポール国民にもじわじわとギャンブル依存症が広がり、生活破綻者が出て問題となっていると言われています。IRの売りは、カジノだけが収入源でなく、国際会議場などの他の施設の売り上げも大いに見込まれる点と言われていますが、シンガポールでは、売上げの大半がカジノです。しかし、最近では、中国人利用客が減少し、カジノの売り上げは大幅に下落。日本でのIRのモデルであるシンガポールですら、すでにIRは斜陽化しつつあるという見解が出始めているのです。世界的に入場者減が止まらないカジノを今さら建設して、いったいどのような客を誘致するのでしょうか。中国人目当てだと思いますが、その中国も、中国政府の政策転換により、明らかに外国旅行に出かける中国人が減っています。

●日本はカジノに依存しなくても立派な観光立国となれる。
政府はIR建設後のシンガポールの国際観光客の増大を強調していますが、現実にはIRが無くても、日本の国際観光客の増加はシンガポールを大きく上回っています。日本は「自然、歴史文化、気候、食」という観光振興に必要な4つの条件を兼ね備えた世界でも数少ない国です。IRなどのカジノに依存しなくても、魅力的な観光立国は可能です。なぜ、人を不幸にするカジノをつくろうとするのでしょうか。政府は「カジノを成長産業の柱に」などと主張していますが、そのような先進国は一国もありません。情けないとしか言いようがありません。

●カジノは国民を堕落させる。
最後に、カジノを奨励していくと、人間は怠惰になるだけではなく、射幸心も出てきて、無駄なものにお金をつぎ込み、勤勉に働かなくなる傾向が出てくるでしょう。そして、国民の堕落傾向を招くことになります。国民が堕落すれば、日本はすぐに二流国、三流国に堕ち、貧乏国へと転落します。やはり、政治家は、国民の幸福とは何なのかを考えて政策を提言していかねばならないと思います。

以 上

 

 

 

 

 

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