2013年
11月
25

北朝鮮が喜ぶイラン核問題合意

ジュネーブで行われていたイラン核問題をめぐる協議は、「第一段階」の措置で合意しました。イランは軍事転用が懸念されるウラン濃縮活動などを制限されますが、イランへの経済制裁の一部を緩和するというものです。

そもそも「イラン核問題」とは何か。それは「2002年に過去18年間にわたって行われてきたイランの核開発計画が発覚。国際社会は軍事転用の恐れがある20%濃縮のウラン製造停止を要求。イランは『核の平和利用の権利』を主張。現在、イランでは20%濃縮ウランが毎月約15㎏生産され、すでに196㎏を保有。核爆弾1個分の約250㎏に近づいており、新たな核兵器保有国が誕生することへの懸念が高まっている」という問題です。

今回の合意で、オバマ大統領は「初めてイランの核計画の進展を止めた。外交がより安全な世界への新たな道を開いた」と自賛しています。

今回の合意の背景には、アメリカ、イラン両国の事情もあります。

アメリカは、シリア化学兵器使用問題で軍事行動を示唆しながら混迷し、結局はロシアのプーチン大統領に助けられたことで、アメリカの威信が低下してしまいました。その中で、今回の対イラン交渉で失地回復を狙っていました。また、イランに対して軍事制裁の可能性を排除しない方針ですが、国内の厭戦気分財政問題軍事行動は避けたいのが本音でしょう。

イランとしても、国際社会による金融や石油産業への制裁で、原油輸出が減少(年間5兆円の損失、国家歳入の3分の1が損なわれた)、通貨下落インフレ(40%)が深刻化していました。それもあって、今年6月に穏健保守派のロウハニ氏が大統領に当選し、表面的には対話路線の可能性が出てきました。ある程度、制裁全面解除が見えなければ、国民生活が破綻し、暴動の恐れも出てくるとの観測も報告されています。

このような事情の中での合意内容は、イランの核兵器転用が容易な20%濃縮ウランの製造凍結核関連施設の厳格な査察。そして、イランへの経済制裁の一部解除というものですが、ポイントは、イランに最低限のウラン濃縮活動を認めたということです。ここに今後の問題が孕んでいます。

イラン側は「イランが核拡散防止条約(NPT)で定める核不拡散の義務を果たせば、原子力エネルギーを利用する権利は全面的に享受できる」とし、将来的にも濃縮を続けられると思っています。イラン・ザリフ外相は「最も重要なのはイランのウラン濃縮の権利が認められたことだ。濃縮計画は継続される」と述べています。さらに、イラン・ロウハニ大統領は最高指導者ハメネイ師に「核開発の権利と実績を認められた」と伝えています。

それに対して、アメリカのケリー国務長官は「合意文書のどこにも『イランにウラン濃縮の権利がある』とは書いていない。『平和的核計画は、交渉の上、相互合意の下で行われる』としている」と反論しています。

イランは「権利が認められた」と主張アメリカは「権利があるとはしていない」と否定。ということは、合意ではあいまいな形で双方が歩みよったのが実情ということです。手放しで喜べる状況ではありません。

結局、今回の合意内容は、イランが求めていたウラン濃縮の権利は明記されていないものの、5%までの低濃縮ウランの製造は、保有量を制限された上で、黙認されたということです。

これは、国連安全保障理事会が、イランに対して濃縮活動の全面停止を要求してきましたが、今回の合意によって低濃縮ウラン生産を続けられるので、安保理決議に目をつぶる譲歩とも言えます。

早速、アメリカ議会から「(ウラン濃縮活動に対して)イランの能力を適切に制限できていない」「(制裁緩和に対して)議会が追加制裁に動く緊急性が増した」と反発が起こりました。

イスラエルのネタニヤフ首相は「歴史的な過ちだ」「イスラエルはこの合意には縛られない。自らを防衛する権利がある」と表明しています。そして、リーベルマン外相は「低レベルのウラン濃縮を事実上、認めたことは、イランの外交的勝利だ」とし、あらゆる選択肢を排除せず、武力行使の可能性改めて示唆しています。

イランと対峙するサウジアラビアも、アメリカとイランの融和に神経をとがらせています。

イランの盟友であるシリアのアサド大統領は、「外国の介入や武力によらない政治解決が、地域の安全保障にもっとも効果的だ」と合意を歓迎する声明を出しました。

今回の合意で、拡大傾向であったイランの核関連活動を抑えることになるかもしれませんが、過去においては、合意が撤回されたこともあります。イランが合意を順守するかは不透明です。今後の抜本的解決に向けた交渉も難航するでしょう。

結局、今回のイラン核問題合意は、「イランの濃縮の事実を容認したもの」なのです。

もともと、核燃料を生産するための濃縮や再処理技術は、核兵器の製造に直結するので、欧米や日本は「軍事転用を防ぐ徹底した監視や検証の仕組みを整えて、初めて保有を許される」という原則的立場を取っています。

核拡散防止条約(NPT)加盟国で、米英仏露中の五カ国以外に濃縮や再処理の施設を持つのは日本、ドイツ、オランダなどごく少数の国に限られています。イランはそこに仲間入りする「固有の権利」を主張してきました。日本などがイランと異なるのは、国際原子力機関(IAEA)に全施設を申告して、厳格な査察を受け入れている点にあります。しかし、イランはIAEAに未申告で濃縮活動に着手しました。

ですから、イランに濃縮活動の継続を認めることは「未申告で始めた核活動でも既成事実化すれば、やがて追認される」との誤解を他の国に与える懸念があるのです。

北朝鮮は今回のイラン核問題の協議を注視しているでしょう。今回、実質的にイランに認められた「核の平和利用の権利」を主張してくることが予想されます。

日米韓は、北朝鮮がすべての核兵器と核計画の放棄を改めて宣言し、具体的な非核化措置を先に行わない限り、6カ国協議再開に応じない立場を堅持していますが、すでに、核兵器を実質的に保有している状況で、日米韓の要求を呑むとは思えません。今後も瀬戸際外交などで、中国を絡めながら揺さぶってくると思われます。

今回の交渉を見ていると、オバマ政権の指導力低下と、譲歩の傾向が見て取れます。最近は、東シナ海の中国による一方的な防空識別圏の設定、それに伴う尖閣諸島の領有権問題の先鋭化、韓国による反日行動、北朝鮮の核兵器保有問題など、日本の周囲での危険度が増していますいざというときに日米安保が頼りになるのか。キャロライン・ケネディ駐日大使という明るい話題もありますが、オバマ大統領の優柔不断さと決断力のなさに、心もとなく感じている人は多いと思います。

やはり、日本が自立しなければならないということです。

 

 

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