TPP交渉の閣僚会合が、合意できずに閉幕しました。
問題は日米関税協議にありました。
日本は、米、麦、砂糖、牛豚肉、乳製品の「重要5項目」の関税維持を主張。アメリカはこの全品目の関税撤廃を迫っています。日米とも言い分を応酬するだけで、「けんか別れ」の状態だったと報道されています。
参加国からは、まとめ役の米国がこわもての姿勢を崩さず、「相手を屈服させることしか考えていない」と言われ、米国の求心力が低下しているとされています。
確かに、日本は水面下で関税の一部撤廃などの譲歩案も用意していました。例えば、米国産の牛肉や豚肉について、関税を引き下げたり、低税率の輸入枠を設けたりすることで、米国からの輸入が拡大してもいいという譲歩案です。しかし、米国は10年以上の猶予期間を認めつつも、最終的には関税撤廃を求める主張を続け、堂々巡りに陥りました。
なぜ、米国は強硬姿勢を取り続けたのでしょうか。それは、オバマ政権にとって、11月に中間選挙を控え、自動車業界や農業団体からの圧力が強まり、譲歩ができない状況にあるためです。
さらに、オバマ大統領に貿易交渉を一任するための法案である「大統領貿易促進権限(TPA)」可決の見通しも立っていません。自由貿易を標榜する共和党はTPAに協力的ですが、なんと身内の民主党から「議会軽視」と反対される始末です。
オバマ大統領は、与党である民主党を味方に引き戻すために、他国から「身勝手」と言われようと、国内の自動車関税を守り、日本の農業や新興国の公共事業などを完全開放させる強硬路線を貫かざるを得ないようです。
米国は、来月から中間選挙の予備選が本格化します。とういことは、議会や産業界などからの圧力がさらに強まり、TPP合意への道のりが険しくなるでしょう。
米国高官からは「長期化すれば、TPPが漂流しかねない」との見方が出ており、来年に持ち越す可能性も出てきました。
さて、このようなとき、日本はどうすべきでしょうか。
実は、日本は国会決議で「重要5項目」の関税維持の決議を採択しており、柔軟性に欠いた状態で交渉に臨んでいました。
米国からは「撤廃まで10年以上かければ国内対策もとれる。なぜ撤廃しないのだ」と追及されました。しかし、日本は国会で「10年を超える段階的な撤廃にも応じない」と決議しているため、平行線となりました。
また、日本は「586品目保護」を目指していましたが、他国が完全撤廃に近い提案をする中で、守りたい品目が群を抜いて多かったのです。「例外が認められると言っても、せいぜい200品目ぐらいで、586品目は多すぎる」と言われています。
このまま、日本が関税維持にこだわると、TPPの質的低下は免れず、長期的な国益を失います。日本は「20年近くかけて5項目の関税を撤廃する」という米国の提案を検討すべきでしょう。
日本の農業の競争力向上のため、撤廃までに猶予期間を確保できれば、構造改革が可能だからです。でなければ、日本の農家は高齢化がさらに進み、このままでは後継者難で、農業の担い手がなくなって、衰退していく危険があります。
今、TPP交渉が「生みの苦しみ」か「空中分解」か、という重要な岐路に立っているのです。
また、日本にとって、TPP参加は「中国包囲網」を形成する重要な施策です。
TPPは、「アメリカとアジアを経済的に結び、中国を外す作戦」とも言えるのです。TPPの条項の中には、中国がどうしても飲めないものが入っています。それは、知的財産権の保護や人権重視、あるいは環境保護などの概念です。したがって、このTPPに、日本と他のアジアの国々が入り、さらにアメリカが入れば、これで「中国包囲網」をつくれるのです。
さらに、TPPは日本国内の構造改革のチャンスになり、産業の国際競争力を高めるのです。
日本の国益のためにも早期の合意を目指すべきです。TPPが合意に至らなかった場合、一番喜ぶのは中国です。TPP合意は「国家の存続」がかかっていると言っても良いでしょう。